開発の経緯
Is it real? The crystal ball
本物ですか? その水晶球
人はなぜ無色透明の水晶球にひかれるのでしょうか。水晶にはどんな魅力があるのでしょう。観光地の土産物店で買った「水晶球」は本物なのか、それともガラス玉なのか。見分ける方法はないものだろうかと悩める人が当社の偏光板を買っているらしいということを知りました。本物かニセモノか、どうやって見分けるのだろうと思い、手元にあった水晶球を二枚の偏光板の間に入れ、指先でくるくる回していると、不思議なことに水晶球の明るさが変わることに気がつきました。黒い帯が見えることもあります。さらに、この黒い帯に沿って水晶球をまわしてゆくと、なんと、虹色の目玉があらわれたではありませんか。水晶球の表面に虹色の同心円が広がっているのです。この不思議な体験を多くの人に知ってもらうため、観察実験セットをつくることにしました。これが2010年に発売した「ときめき!水晶Q 水晶球観察実験セット」です。自画自賛ですが水晶球とガラス玉(ビー玉)が付属しているので、光源さえ用意すればすぐに観察できるため、ネットショップでも人気の商品でした。ところが観察に適した水晶球の入手がむずかしくなってきたため、生産を見合わせることになったのです。
その後も、「水晶球はいらないから、観察器だけ売ってほしい」というご要望が続きました。なぜ虹色の同心円が見えるのか。すべては水晶、つまり二酸化ケイ素の結晶構造と、光は波の性質を持っているということに由来します。これは地学の教材・光学の教材として普及させるべきではないかと考えている時、一冊の本に出会いました。それは鉱物の研究で著名な理学博士、堀秀道氏の「水晶の本」(草思社)です。
「堀秀道の水晶の本」はホリミネラロジー ミネラルショップにて販売しています。
この「堀秀道の水晶の本」のあとがきから一部抜粋させていただきます。
ところで、私がかねてより心配していることがある。複数のノーベル賞を受け、科学先進国といわれる日本であるが、鉱物学全般に関しては欧米先進国と肩を並べることができていないように思われる。人材の数も少ない。
その原因のいくつかは先にも触れたが、日本では、「自然史」の伝統が未発達であるため、子供たちに水晶の魅力を伝えることができず、教育機関でも実物なしの理論を教えることになってしまっている。水晶、方解石、蛍石などの基本的鉱物の肉眼鑑定ができない鉱物教師というのはいかがなものであろうか。
日本の地学教育に対するこの憂慮が、今回、当社が水晶球観察器を商品化することを後押ししてくれました。おおげさな表現ですが、地球の胎内で眠り続けていた水晶と、工業製品として人間が開発した偏光板の邂逅(かいこう)によって美しい虹色の同心円や螺旋(らせん)が見えることを多くの人に知っていただければ、と願っています。